<古書店店主ジョルジュの人物像>
■ ジョルジュという人物をつくり上げるには時間がかかりました。事実に固執しすぎないよう にしようと思いながら、元活動家たちのことを調査しました。イタリアの極左テロ集団、赤い旅団の支援者だった出版人ジャンジャコモ・フェルトリネッリから着想して、ルキノ・ヴィスコンティの『山猫』(63年)で バート・ランカスターが演じた人物=サリーナ公爵の特性を共有する男を思い描いたのです。実際ジョルジュは『山猫』でバート・ランカスターが演じた人物と同じサリーナ姓を名乗っています。
■途方もなく富裕で、発禁本の出版に身を捧げている人物が姿を隠さなければならなくなった ら、どこで開業することになるだろうかと自問しました。そこでカルチェ・ラタンのことを考えたのです。というのもこの人物はお金に困っていないし、みずから書店を経営して、書物をカモフラージュにして身を隠すことができるからです。取り散らかっていてむさくるしい本屋。乱雑な状態を映画に撮るのはとても面白く思いました。いたると ころに箱が散らかっている。パリの中心部に位置しながら世間から隔絶 し時間を超越した場所。うわの空で歩いている通行人なら見落としてしまうような街角の小さな店というアイディアが気に入りました。
■主人公ふたりはお互いの違いゆえに惹かれ合います。ですから彼らは、互いにとって思いが けない話題ばかりを持ち出すのです。けれどもその言葉はとても率直なものでもある。これが愛なのです。自分がそれまでには耳にしたこともないようなことを話す人、あるいはそうしたことを独特のやり方で口にする人との出会い。
■ジョルジュはとても知的な人物で、彼はマヴィのことを信頼します。ジョルジュはぶっきらぼ うで遠慮がない。マヴィが作家の資質を備えた若い女性であることをジョルジュはただちに見抜きます。きみは物書きになるべきだとジョルジュがマヴィに話すとき、彼は相手のことをすっかり理解しているのです。ジョルジュは出版人であり、物書きというのがどういう人間であるかをよく知っている。彼女が何に向いているのかを教えてあげるわけです。
■ジョルジュは去って行きます。みずからの過去に囚われているがために。刑務所行きを免れたいと思っている。己の思想ゆえに逮捕されたくないからです。けれども彼の逃亡を促したのはマヴィです。ジョルジュは彼女を危険に曝したくないと思っている。これぞ真の愛です。自らのことを考える以前に、他者のことを考えるということですね。マヴィには前途が開けているのだからジョルジュは彼女を破滅させたくない。いずれマヴィが成功して万事うまくゆくと確信しているのです。彼に備わった紳士的な側面です。別の時代、中世からやって来た男というわけです。ジョルジュは自分に死期が近づいていることを強く意識しています。 |